ももの花クリーム
幼かった頃、冬になると、母方の祖父が、出稼ぎで上京したついでに、顔を見せに来て、何日か我が家に宿泊していました。
せっかく遠くから会いに来ていましたが、両親は共働き、子供たちは学校だったので、何処かへ出かける予定もない祖父は、日中はひとりでお留守番したが、私たちが学校から戻って来ると、母が帰るまでの2、3時間を、一緒にテレビを見たりして、過ごしていました。
ある時、祖父がプラスチック製の白い容器をカバンから取り出し、ピンク色のフタをあけて、中のクリームを手に塗り始めました。
容器には、「ももの花クリーム」と印刷されており、祖父の容貌とその可愛らしい名前がミスマッチ過ぎて、その光景をいまでも鮮明に記憶しています。
クリームを塗る祖父の手は、分厚く、ごつごつとしていて、塗る時に、カサカサと乾いた音がしていました。
当時は、子供だったので、気にも止めていませんでしたが、大人になってから、祖父の想い出話を母から聞いた時に、そういう手は、働き者の手であることを知りました。
私たちは外孫なので、遠くに住んでいる祖父に、めちゃめちゃ可愛がられたという記憶はありませんが、夏休みに母の実家に帰省したときには、大きなスイカを、井戸水でキンキンに冷やして、毎日食べさせてくれたことを憶えています。とても甘くて、美味しいスイカでした。
間もなくお盆になりますが、朴訥で働き者だった祖父は、あの世でも、大きな手に「ももの花クリーム」を塗っているのでしょうか。